第1章1話|保険探偵ホームズ〜100%推理を外さない名探偵〜

小説

「救急車と警察を呼べ!」

叫んだのはまたしても荒林さんだった。私は慌ててしまったが、そこは長池室長が迅速に対応していた。そばにいた警備員もすぐに駆けつけてきて、荒林さんと共に男と交渉を始めた。

男は必死に「ちがう! 私じゃない!」と叫んでいたが、とにかく包丁を手放させて、長池室長と警備員で男を抑えて警察を待つことになった。

すぐに警察と救急車が到着した。その日は業務は停止になり、警察の調査を待つことになったが、私たちも現場に居合わせた参考人として会社に残されることになった。

警察によると、包丁を持っていた男は掃除会社から派遣された雇われ掃除員だった。動揺していて証言がないため犯人かは不明だが、凶器の指紋は彼のもののみだったそうだ。そして、刺された花村先輩は残念ながら亡くなってしまったらしい。どうしてこんなことになったのか…。花村先輩には入社当初からお世話になった。まだ実感が湧かない。爽やかな笑顔と目尻の笑いじわが印象的な人で、社内の女子たちに人気の人だった。

「どうしてこんなことになってしまったんでしょうかね」

「知らねえけどさ、人間なんて本当に些細なことで恨み妬みを感じるだろ。私が若い時にもあったよ。店舗で働いてた時に包丁持って恨み晴らしにきた客とか、不倫で管理物件内で殺傷事件あったり。幸いか私は怪我はなかったけど、他の店舗で客の恨み買った女店長が刺されたこともあったよ」

荒林さんは不動産店舗出身、叩き上げの営業畑出身だから、本当に色々な経験をしていると感心する。

「長池室長…私たちどうしたらいいんでしょう。あの人、本当に犯人なんですかね。それとも社員の中に犯人が…」

「アカリくん。滅多なことは言わない方が良い。私たちは警察の答えを待つだけだよ」

「長池、そんなこと言ってお前だって心配じゃないのか? 心配症のお前のことだから必死に犯人の事考えてるだろ」

「い…いやあ、そんなことないですよ。本当に」

「ほら、家族になんてLINEしたんだ? いい夫だよなお前は。家族も安心だよ」

「まあ、まあ。」

冷静に振る舞う長池室長は、スマホをジャケットの内ポケットに仕舞い、何かを考え始めた。そして、しばらくしてからトイレに行くと言って席を立った。

「私たち今日帰れるんですかねえ」

「わかんねえよ。それこそ警察次第だろ? 知ってるか? そこにいる警視庁の刑事は偉そうだけど、結局警察庁の外局の省庁なんだよ。警察庁も国家公安委員会の下、国家公安委員会は内閣総理大臣の下な。内閣総理大臣の下に経産省とかがあるだろ。それと同じようなもんだな。警視庁なんて孫の孫組織なんだよな。

それにしても…娘は警察とだけは結婚して欲しくないね…」

荒林さんは何度も聞いた「警察組織の話」、そして「警察は人を疑う仕事だから娘とは結婚して欲しくない話」を、いつも通り饒舌に話し始めた。

二人とも落ち着いているなあ…感心しながら私は動悸が止まらなかった。本当に、これからどうなるんだろう…。

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