「メタモルフォーゼの縁側」のあらすじ・ネタバレありの考察・感想。BLを通じて芽生えた世代を超えた友情、その先にあるもの

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春文

大学時代は文学部史学科文化人類学専攻で宗教、西洋文化史、サブカルチャーなどを勉強。趣味は漫画映画ジブリYouTube芸能ダークアカデミア、地域文化、ブログなど。現在は制作会社の運営などもしてます。

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漫画「メタモルフォーゼの縁側」を読みました。
不思議なタイトル、カバー画像は↑にあるとおりおばあちゃんと孫? のような少女が縁側で本を読んでいるという牧歌的な風景。本屋で見かけたらスルーしてしまいそうなあまりに平和な表紙ですが、その中身は感動の連発、衝撃もあり。
「このマンガがすごい!2019」オンナ編 第1位を獲得し、「マンガ大賞2021」でも8位を獲得(「マンガ大賞2019」でも8位を獲得)したこの作品。マンガ大賞2021で入賞しているのを見て、「水は海に向かって流れる」とともに読んでみることにしたのですが、大正解。傑作でした。
もともと私はジャンルは幅広に読みますが、中でも日常系漫画が大好き。先に紹介した「水は海に向かって流れる」や、同作品の作者である田島 列島さんがつくる他作品もとても好みです。
この作品はそんな日常系漫画の様相を帯びつつ、ストーリー、群像的表現ともに魅力的で、読後感も心地よすぎました。(映画「ニュー・シネマ・パラダイス」を見終えたときの余韻に似ていました。思えば「ニュー・シネマ・パラダイス」もおじいさんと少年の物語でした)
ここでは「メタモルフォーゼの縁側」のあらすじ、考察などについて書きたいと思います。
「メタモルフォーゼの縁側」を読む

漫画「メタモルフォーゼの縁側」のあらすじ

物語の主人公は一人のおばあちゃん。
真夏のある日、いつも通っていた喫茶店の閉店に面し「知らない間に 時間って経ってるのよね」という少し切ない一言。
暑さから逃げるために立ち寄った本屋で、表紙に惹かれて一冊の漫画を手に取ります。
実は手にとった漫画はBL。
本屋でバイトをしている少女はおばあちゃんがBL漫画を買おうとしていることにぎょっとしますが、その場は何事もないように振る舞うのです。
おばあちゃんがBL漫画を買うところから始まるという不思議な物語。
実はこの女の子がゆくゆく、手にとったBL漫画をきっかけにおばあちゃんと不思議な縁を紡いでいくのです。
「メタモルフォーゼの縁側」を読む

世代の違う「友だち?」という不思議な関係性|漫画「メタモルフォーゼの縁側」のネタバレありの感想・考察①

この漫画のおもしろさは友だちがすくない上に、自分にあまり自信がない高校生のうららと、夫をなくし一人で過ごしながら習字の先生をしているおばあちゃん、市野井さんがBLを通じて友だちのように過ごす不思議な関係性。
世代はちがうが対等なのは、うららの人間的な魅力のおかげか、市野井さんの懐の広さゆえか。二人のバランスがとても心地いいです。
この漫画を読んでいて思ったのは、最近見た映画「ダーティ・グランパ」の記事でも書きましたが、おばあさんやおじいさんへの「神性」と「リアル」の差ってあるよなということ。
おじいさん、おばあさんってけっこう「神性」があるというか、立派な人だという先入観を持って接してしまうものだと思うのですが、その実けっこうドライだったり、悪い友だちとパチンコいってたり、影でタバコ吸ってたり、長く生きてきた人間のたくましさというか「リアル」な部分があると思うんです。
市野井さんも、いい意味でうららに対してドライで、うららのいいところにフラットに目を向けているのかなと思います。

「BL」とはなにか。|漫画「メタモルフォーゼの縁側」のネタバレありの感想・考察②

また、この物語の最大の主題が「BL」です。
BLとは言わずもがな「ボーイズラブ」ですが、このブログでも漫画「まるごと 腐女子のつづ井さん」レビューをしたことがありますが、私が思うに「BL」のある世界ってとても平和なんです。(というのは、この2つの漫画を呼んだ感想からくるものですが)
実存する世界(急に哲学的表現になることをお許しください)って、世知辛いじゃないですか。
友情も、恋愛も、もはや人間関係自体が息苦しかったり「制約」を感じることが多い。その中でBLのある世界線だけはそんな制約が失われる感覚があるので、私からはとても平和に見えるんです。
海街diary」の原作者である吉田秋生さんの作品「BANANA FISH」を読んだときも恋愛との境界線が曖昧な「友情」の美しさにうっとりして目覚めそうでした。
あと、私はもともとBLってどういうもの? 何が魅力なの? という解釈を持っていなかったのですが「メタモルフォーゼの縁側」が入り口になってBLとの接し方を少し理解できたような気がします。

寂しいのはどちらか|漫画「メタモルフォーゼの縁側」のネタバレありの感想・考察③

この漫画の感想をネットで見ていたら「うららがおばあちゃんとの出会いによって救われた」的な感想を見つけたのですが、私は「お互いさま」というか、お互いに支え合っているような関係性に見えました。
市野井さんは夫をなくして3年。一人で過ごす苦労も実感しているものの、娘夫婦のいるアメリカにいるのは忍ばれる。うららは友だちがいないことや、自分に自信が持てないこと。自分が本当にやりたいことに踏み出せないことに対して悩んでいる。
二人は友情を育む中で、成長というよりは「変化」し、やがてうららには同年代の友人ができ、市野井さんはアメリカの娘夫婦のもとに引っ越しをする決意をするのです。

「メタモルフォーゼの縁側」タイトルの由来・意味|漫画「メタモルフォーゼの縁側」のネタバレありの感想・考察④

ネタバレもほどほどに、最後は「メタモルフォーゼの縁側」というタイトルの由来について調べてみたので紹介します。
といっても、インタビューに掲載されていたので一部引用させていただきます。

「一方その頃、作品のタイトルがずっと決まらなかったんです。それまで考えていたタイトルはいまとは全然違うもので、いま考えると絶対ナシなタイトルばかり浮かんできて……(苦笑)。そんなときにめたもるセブン』という曲のことを思い出したんです。作品を作っているときの気分にピッタリの曲でした。
当時『めたもるセブン』を聴いて、“自分の好きなようにしていいんだな”と、すごく思いました。けものの曲はわりとどれもそうなのですが、自分にすごく正直というか、“いまはこの気分なんです”という、常に変化している感じがあって。」
漫画『メタモルフォーゼの縁側』作者・鶴谷香央理インタビュー。“BL×おばあちゃん”の日常に大反響!」(ウレぴあ総研)より

めたもるセブン」という曲はアーティスト「けもの」さんの曲。聞いてみると(作者が聞きながら作っていただけに)とても「メタモルフォーゼの縁側」の雰囲気にあっている。。

私の趣味で「漫画にあった曲を聴きながら読むことで超没頭する」というのがあるのですが、これはまさに公式ソング。けものさんの曲を聴きながらもう一周よみたいと思います。
ちなみに「メタモルフォーゼ」という言葉の意味は「変形」「変身」「変化」なので、縁側で漫画を読む2人が変化していく物語〜というような意味かなと思います。
「メタモルフォーゼの縁側」を読む

漫画「メタモルフォーゼの縁側(鶴谷 香央理)を読み終えたあとは

ということで私は浸ったままこの作品を読み終えたのですが、そのままの勢いで以下の漫画たちを読みました。
・「水は海に向かって流れる
田島 列島さんの作品。「メタモルフォーゼの縁側」と同じく「マンガ大賞2021」で入賞。日常漫画っぽい雰囲気と、陰鬱な爽快感が漂う群像漫画です。
・「子供はわかってあげない
こちらも田島 列島さんの作品。最近映画化もされましたが「水は海に向かって流れる」と同じような世界線で流れる日常系群像物語。
・「まるごと 腐女子のつづ井さん
こちらはSNSで日記がバズったつづ井さんのエッセイ漫画。実はこの漫画は「メタモルフォーゼの縁側」の前に買っていたのですがBLトークの受け止め方がわからず停滞していました。「メタモルフォーゼの縁側」読後に再開すると無事読了。
・「BANANA FISH
記事中でも紹介しましたが、本作はアメリカを舞台に繰り広げられるサスペンス風BL漫画。主人公のアッシュは天才、元娼婦。対するヒロイン(男)はエイジくん。二人の友情にも恋人関係にも似たような空気感と、暗く、暗い物語に圧倒されます。
・「我らコンタクティ
1巻完結なのですが、その分勢いよく映画のように魅せられる完成度がめっちゃ高い作品。ロケットの開発を目指すかずきに影響され、協力をする主人公のカナエ。「仕事とは」「楽しさとは」など、様々な主題を濃密にまとめた一冊。
以上。
ちなみに映画化するらしいです。この作品の素敵な雰囲気を再現してくれることを祈ります。
出典:「メタモルフォーゼの縁側(1) (鶴谷 香央理・カドカワデジタルコミックス)」Amazonより

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