漫画「子供はわかってあげない」を読みました。最近映画化もされた作品ですが、本作の作者である田島 列島さんのマンガ大賞2020入賞作「水は海に向かって流れる」を読んでとてもおもしろかった(傑作です)ので、他の作品も! と思いすべて同日に読み切りました。
「子供はわかってあげない」は、上下巻で終わる完結な作品ではあるのですが「水は海に向かって流れる」「田島列島短編集 ごあいさつ」と同じような世界線の作品なので、ひとつづきの物語として楽しめると思います。
ところで、最近映画化もされたようです。
残念ながら私はコロナ架で映画を自粛しているので見に行くことはできませんが、この作品が持つ物憂げで、陰鬱で、一方で爽やかさも備えた空気感を映画でどこまで表現しているのかはとても気になっています。
それでは、本作のあらすじを少しだけ紹介したいと思います。
漫画「子供はわかってあげない」を読む
- 漫画「子供はわかってあげない」のあらすじ
- 「子供はわかってあげない」のネタバレありの考察・感想。
- 「水は海に向かって流れる」と考察が近い。|漫画「子供はわかってあげない」の感想・ネタバレありの考察①
- 祖母は「他人の神を笑うな」と言った。|漫画「子供はわかってあげない」の感想・ネタバレありの考察②
- 現実の探偵は足を使い、ゴミ箱をあさって謎を解く。|漫画「子供はわかってあげない」の感想・ネタバレありの考察③
- 親は見抜いているのか、いないのか。|漫画「子供はわかってあげない」の感想・ネタバレありの考察④
- 女性になった孫と祖父、女性になった明ちゃんと善さん。|漫画「子供はわかってあげない」の感想・ネタバレありの考察⑤
- ジョニーの遺言、それは「好き」という一言。|漫画「子供はわかってあげない」の感想・ネタバレありの考察⑥
漫画「子供はわかってあげない」のあらすじ
主人公は水泳部の女の子。プールで泳いでいるときに、屋上でなにかをしている人がいる姿を見かけます。
「ちらっと見えたアレ」を見るために水泳部の活動が終えたあとに急いで屋上に向かう少女。
屋上に到着するとなにやら絵を描く少年の姿が…。
「魔法左官少女 バッファロー KOTEKO」という謎アニメのイラストを描くのは書道部に所属する、字がうまい門司(もじ)くん。
主人公のサクタさんとはクラスが同じだったけど顔なじみ程度の仲。この二人を軸に物語は進んでいきます。
この物語は端的に言うと「人間関係ミステリー漫画」です。作者である田島列島さんの作品は同様のジャンルで描かれているのですが、ミステリーが好き、探偵ものが好き、恋愛漫画が好き、群像劇が好きというひとたちには受けること必至です。
「子供はわかってあげない」は上下巻で終わる読みやすい物語なのでぜひ興味がある方はお試し気分で読んでみてください。
漫画「子供はわかってあげない」を読む
「子供はわかってあげない」のネタバレありの考察・感想。
ここからはネタバレありの感想、考察を。
まだ読んでない人はできれば読まないでください。
「水は海に向かって流れる」と考察が近い。|漫画「子供はわかってあげない」の感想・ネタバレありの考察①
この作品とてもおもしろいです。
面白いのですが、記事を書くにあたっては「水は海に向かって流れる」と同じ感想・考察しか出てきませんでした汗 もちろん話の中身は全然違うし、登場人物もシナリオも全然違うのですが「主題」がとても似ている。
似ているなあと思ったところを箇条書きレベルで紹介します。
・人間関係の謎を解き明かしていく「人間関係ミステリー作品」である
この物語の特徴は作品が進むにつれて人間関係の謎が明らかになっていく「人間関係ミステリー作品」であるところだと思います。そして、主人公たちが抱える悩みも物語が進むにつれて明らかになる。登場人物の特徴・年齢や趣味、過去の経歴なども後半になると少しずつ明らかになるところもリアルだなあと思います。
・ボーイ・ミーツ・ガールである
サクタさんと門司くんが出会い、サクタさんの手元に届いた新興宗教の御札から父親を探すことになり「サクタさんの父親をめぐる謎」を解き明かす過程で二人が成長していく様子に感動します。
・親が再婚である
サクタさんは実父と養父が異なります。父親のちがう弟もいますが、天真爛漫な性格からあまり気にしていないようです。家族関係が複雑なのは、田島列島さんの作品の特徴だと思います。
・小ネタが多くて面白い
左官魔法少女KOTETSUとか、セメント・モリ(メメント・モリ)とか、母親のギャグとか、細かい小ネタがとてもおもしろい。大好きです。
・登場人物が個性が強くて魅力的
サクタさん、門司くん、門司くんの兄 明ちゃん。明ちゃんと暮らす善さん。すべての人物に個性があって、本当に世界にいるような感覚になります。
個人的には門司くんが兄を探しに教団に走りに行くシーンで、善さんが「ああ〜〜…いい…!! 少年が男になる瞬間!(ゾクゾクゾクゥ ブルッ)」となってるシーンがとても好き。こういうシーンを描けるのすごいです。
「水は海に向かって流れる」の感想でも詳しく書いていますので、ぜひそちらも読んでみてください。(本作の登場人物も出てきます)
続いてはこの作品ならではの魅力を書いてみます。
祖母は「他人の神を笑うな」と言った。|漫画「子供はわかってあげない」の感想・ネタバレありの考察②
この話の主軸となるテーマが「新興宗教」です。物語の冒頭から「新興宗教の御札」が出てくるし、門司くんの祖母の教えは「他人の神を笑うな」です。
サクタさんのお父さんは「人の心を読める」ことから新興宗教の教祖に祀り上げられ、その末に教団を立ち去る。「むやみに人の心は読まない」と言いつつも、娘を連れて帰るために来た門司くんの心は読みまくる。
教祖として活動をしていたお父さんは、最終的に「自分にしかできないことをしなくてはいけない」という呪縛から放たれて教祖をやめることになる。スピリチュアルを「自分にしかできないこと」の象徴として扱うのすごいなと思いました。
急にスピリチュアルなところに漫画「リバーエンド・カフェ(Kindle Unlimitedで4巻まで無料)」を思い出します。「リバースエッジ 大川端探偵社(Kindle Unlimitedで7巻まで無料)」などで作画をてがけるたなか亜希夫さんが作者で、雰囲気もよく、ほどよくミステリアスな雰囲気が漂い、震災・いじめなどのテーマも描きつつ、ブルースの魅力を教えてくれます。
現実の探偵は足を使い、ゴミ箱をあさって謎を解く。|漫画「子供はわかってあげない」の感想・ネタバレありの考察③
ミステリー小説の探偵は「推理」で謎を解いていきますが、現実の探偵は「調査」で謎を解きます。
推理というのは要するに「目的=謎の解明」に向けて「何をどう調べれば最短ルートで謎を解くことができるか?」を考えること。考えるためには「人の話を聞いたり」「現場の情報を集めたり」と「調査」がとても重要になるので、容疑者を尾行したり、聞き込み調査をするのです。
ただ、よくあるミステリー小説は肝心の調査シーンは削られていることが多いのですが、今作品の探偵 明ちゃんように「教祖の知人をたどって歩き回る」「教団に足を運びゴミ箱を漁る」というようなことを通じて物的証拠を探し、謎の解明に近づくのが現実の探偵のしごとだったりするのです。
そういう「探偵の仕事」が面白いなあと思う方はぜひ、「リバースエッジ 大川端探偵社(Kindle Unlimitedで7巻まで無料)」での泥臭い調査や、海外ドラマ「SHERLOCK」での科学的な調査にも魅力を感じると思いますので、ぜひ見てみてください。
親は見抜いているのか、いないのか。|漫画「子供はわかってあげない」の感想・ネタバレありの考察④
この話もそうですが、「水は海に向かって流れる」でも親の目線というのは鋭いと思わせる描写が多い。
たしかに、現実でも親というのは(特に母親)妙に鋭くて、何かを隠していてもバレている事が多い。しかし、バレていることを闇雲に追求するのではなく、それを察しつつも言及してこなかったりする。この作品でサクタさんの母・父は「本当に合宿に行かない」と察していそうな雰囲気で見送ってくれるシーンに親の鋭さを感じます。
そして、最終的に家に帰ってから無事バレるのですが、そのとき母は、家族を乱すことになってしまうのではないかと実父の所へ行くことを隠したサクタさんの思いやりに感謝し、そっと抱きしめて一言「でも次はウソつかないで行ってね」と許すのでした。
並行して読んでいたスティーブン・キングさんの超絶くらい日常系ホラー・サスペンス小説「ゴールデン・ボーイ」(文庫版で2話収録されていて、1話目が有名な映画「ショーシャンクの空に」の原作になった「刑務所のリタ・ヘイワース」)を読んでいても、母親というのは妙に鋭い(父親はだめ)というのを感じていたところだったので、本作でもそういう描写が目についたのかもしれません。
女性になった孫と祖父、女性になった明ちゃんと善さん。|漫画「子供はわかってあげない」の感想・ネタバレありの考察⑤
門司くんの兄 明ちゃんは、性転換手術を受けて女性になりました。女性になったことを機に祖父に縁を切られた明ちゃんですが、祖父が腸閉塞で入院したという話を聞いて病院にお見舞いに行きます。そこで祖父は憎まれ口をたたきながらも明ちゃんからの「おじいちゃんが私のこと嫌いでも 私はおじいちゃんが大好きよ ずっとずっと大好きだからね」の一言に口をつぐむ。
このシーンがとてもたまらない。ぐっときます。その後、善さんに語った「私おじいちゃん子なんだよ」の一言。善さんに鍵を渡して自室へ戻るシーンでは明ちゃんの表情が写りませんが、おじいちゃんと再会し、仲直りができたことに安堵したのか、病気の祖父を見たせいか、泣いたんだろうなあと推察できます。
祖父母への「神性」というテーマではいくつか記事を書いていますが(映画「ダーティ・グランパ」や映画「マイ・インターン」、漫画「メタモルフォーゼの縁側」など)この作品でも結局は孫を許しちゃうおじいちゃんって言う構図は「神性を感じる」瞬間だと思います。
また、(おじいちゃんビジュアルの)善さんとの関係。ラストで「俺らは子供を残せるわけじゃないから 明ちゃんとのつながりが 世界のどっかとつながっていたいんだ」という一言。ふむ。やはりそういう関係だったのですね。いい人。
ジョニーの遺言、それは「好き」という一言。|漫画「子供はわかってあげない」の感想・ネタバレありの考察⑥
サクタさんが実家に帰ってから、突然作画のタッチが筆ペンっぽくなるシーンがあります。
海で泳いでいたサクタさんの目の前には門司くん。すると、海の中から突然ジョニーと名乗る馬が現れます。馬は「お前が文献でしか見たことがないようなフロンティアへ行くのさ」と意味深なことを語ります。ジョニー曰く、そこは「深くて暗い 川があるらしい」。そして「ある程度の年齢になったらそこへ向かわないといけない」。
ジョニーは休むことなく走り続けます。休めるワケはなく、ジョニーは川を見られないかもしれない。そして「俺をコントロールしようとするな」の一言。ジョニーを手懐けることはできず、対抗措置は「フロンティアで見たものを言い伝えや文献にすることだけ」で、一番の対抗措置は「好きという言葉」と言います。(しかし、好きという言葉はただのカードで、ジョニーはそんなカードに入りきれるほど小さくないそうです)
門司くんとの出会いから始まり、ジョニーが現れ、フロンティアを目指す。このシーンで語られているフロンティアは「恋や愛の人間関係の様相」であり、ジョニーは「自らの中にある恋や愛の感情」なのではないかと思いました。
恋や愛の感情は「好き」という言葉で表現されますが実態はありません。その感情は消化されず、実を結ばないことも多い。実を結んだとしてもその形は深くて暗い川のように割り切れないもので、実態のない存在です。
おそらくここでは「愛」というよりは「恋」に近い感情をジョニーと読んでいるのだと思います。そしてタイトルにあるジョニーの”遺言”は、もしかしたらフロンティアに行くためには「好き」というカードを使ってね、ということだと思います。
長くなりましたが、感想・考察は以上。
ちなみに「田島列島短編集 ごあいさつ」「水は海に向かって流れる」「子供はわかってあげない」は似たような世界線なので、1シリーズでも読んだ方は他の作品もぜひ読んでみてください。
漫画「子供はわかってあげない」を読む
出典:「子供はわかってあげない(上) (モーニングコミックス) 」Amazonより
(C)2020「子供はわかってあげない」製作委員会 (C)田島列島/講談社
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