漫画「我らコンタクティ」はまるで映画のような味わいの1冊。あらすじ・ネタバレありの考察・感想を紹介します。

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春文

大学時代は文学部史学科文化人類学専攻で宗教、西洋文化史、サブカルチャーなどを勉強。趣味は漫画映画ジブリYouTube芸能ダークアカデミア、地域文化、ブログなど。現在は制作会社の運営などもしてます。

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漫画「我らコンタクティ」を読みました。
普段1冊しかない漫画は読みごたえがないと思って敬遠しているのですが、このときは「メタモルフォーゼの縁側」「水は海に向かって流れる」など「このマンガがすごい!」や「マンガ大賞」などに選ばれた漫画を漁っていたので「マンガ大賞2018」第2位のこの作品にも手を出してみました。
読んでみた感想としては、傑作でした。
1冊しかないことによってかえって勢いが失われないままラストまでいくし、ストーリーが1本線なのは布石が大量に打たれる長期連載シリーズとは違って映画的な味わいを生んでいます。(ワインの評価をしているような、酔った表現をしてすいません)
あらすじを紹介したいと思います。
「我らコンタクティ」を読む

「我らコンタクティ」のあらすじ

場面は主人公のカナエが職場の飲み会で、社長からパワハラを浴びているシーンから始まります。
カナエはイライラのさなか、すきを見て抜け出します。
「会社辞めちゃおっかな」に透けるカナエのしごとへの気もちの低さ。一方で高架下に流れる車のライトを見て「きれいだな」と感じる余裕はあるようです。
突然登場したのは小学校の頃の同級生、中平かずき。漫画のコマはここで終わりますが、この二人の再会が物語を動かしていきます。
この作品自体が映画のような仕上がりで、中身にふれるとどうしてもネタバレになってしまう。
できればここまでで騙されたと思って読んでみてほしいくらいです。
「我らコンタクティ」を読む

「我らコンタクティ」のネタバレありの考察・感想。

ここからはネタバレありの考察を。
まだ読んでない人はできれば読まないでください。

複数の主題が十分に描かれて1巻で終わる完成度の高さ|漫画「我らコンタクティ」の感想・考察①

この物語の素晴らしいところは、1巻で終わる簡潔さの一方で、凝縮された複数の主題がそれぞれきちんと成立したうえでエンディングまで一直線に物語がすすむところ。
私が感じた主題は「金ではなく、夢に生きる人生」「他人の楽しみと自分の楽しみのちがい」「疎遠と喧嘩」などなど。
しかし、それらの主題を描くだけではなく、ちゃんと主線の物語である「ロケットを開発して、宇宙人に映画を見せるために飛ばす」という目的を果たすまでの過程や、技術的な仕組みの部分も手を抜かずに描いているところがこの作品の素晴らしいところ。
全方位手を抜かず、かといって冗長ではなく、素晴らしい密度で最初から最後まで駆け抜けます。こういう作品が映画化されるべきなんだと思います。
映画的な作品という意味では「スケットダンス」で有名な篠原 健太さんの「彼方のアストラ」も5巻完結ですが、SF映画のような仕上がりでとてもおもしろいです。ハリウッド系のSF映画に近い印象を受けます。

「金ではなく、夢に生きる人生」|漫画「我らコンタクティ」の感想・考察②

中でも私は「もともと仕事が嫌いで、楽に稼げる方法を探そうと躍起になっていたカナエが、かずきとの出会いによって夢を追いかける喜びを胸にかかえながら過ごすことによって、日常のしごと・暮らしすらも充実して過ごすようになった」ところに感銘を受けていました。
そして、かずきもラストでは「僕もカナエちゃんとやれて変わった。楽しかった」と言うように、変化は二人ともに起きていたのです。
かずきは最初から、小学3年生のときにカナエちゃんと見たUFOに映画を見せたいという一心でロケットづくりに励んでいましたが、それでもカナエちゃんとの日々が変化を起こしていたというのは「金のために働きがち」な私にはとても救われる描写でした。
「金のためじゃない」というのは、ロケット打ち上げを警察に止められそうになったかずきが、大学の教授に公的な資金を使ってロケットを飛ばさないか? ただし映画は載せられないという話をされた際に即断るところにも現れています。
カナエも、かずきも、生活のためには普通のサラリーマン・作業員として働いています。一方で夢のための「仕事」に打ち込むことで両方の「仕事」に活力がみなぎっているよう。そういう人生があってもいいし、そういう「仕事」が「いい仕事」だと思いました。

「他人の楽しみと自分の楽しみのちがい」|漫画「我らコンタクティ」の感想・考察③

2つめのテーマ「他人の楽しみと自分の楽しみのちがい」は、中心となるのはかずきの兄と不倫をしている大人の女性、梨穂子(りほこ)さん。
梨穂子さんはなかなか病んでいて、かずきの兄に渡されるお金を憎悪から燃やし、カナエとかずきが楽しくロケットをつくっている場であり、かずきの兄が経営をする場でもある工場を石油で燃やそうとします。
梨穂子さん曰く、私は普段楽しんでいるのに憐れみの目で見られる、それに楽しんでいるはずなのに他の人が楽しんでいることを許せないと。
かずきは、ロケットづくりを邪魔しようとした梨穂子さんに対して「他人の楽しいことを奪うのはダメ」と説教をしますが、それに納得した梨穂子さんは「自分で解決する」と、他人と比べない人生を送ることを決意します。

「疎遠と喧嘩」|漫画「我らコンタクティ」の感想・考察④

そして、かずきと兄の物語。
かずきの兄は真面目で、かずきが働く工場の経営者です。かずきは自由奔放で、昔から兄についていくような存在だったそうですが、いつしか距離が離れ、兄とは疎遠な関係になっていました。
そんなある日、梨穂子さんとうまくいっていない兄は(梨穂子さんと同じように)ロケットづくりを邪魔するべく、工具でロケットを破壊しようとします。
現場を見たかずきは勢いよくドロップキック。勢いままに兄弟喧嘩をして、酔っ払った兄をボコボコにします。兄弟喧嘩のすえにお互いの良いところを認めあった兄弟は長年の疎遠に終止符を打って腹を割ることになります。
そして、それまでもかずきに無関心のように振る舞っていた兄は、実はロケットづくりにも、弟にもとても関心を持っていてロケットを発射させるための手続き・政治的な制約を整理するための手伝いを行うキーマンになるのです。
兄弟の疎遠というのはよくある話だと思いますが、この作品を読んでいて思ったのは「自己肯定の関係」なんだなということ。自分に一番近い存在とも言える兄弟を認めることは、自分自身に劣等感があったり、負い目があるとできません。しかし、究極の自己肯定というのは「自分の負い目を認めること(負い目があっても良いんだと納得できること)」だと思うのですが、兄弟を認めることによって、「自分のだめなところはだめでいい。それよりもこの兄弟に良いところがある」と認めることができるんじゃないかなーと思いました。

金、理想の女性像、世間の目。一般的な「正しさ」を捨てて、自分のやりたい「仕事」をする良さ。|漫画「我らコンタクティ」の感想・考察⑤

ここまで書いていて気づいたのですが、主題が3つあると書きましたが、そのどれもが「他人の目を気にしないで、自分の人生を過ごすこと」にフォーカスを当てているように感じます。(私自身の関心テーマだからというのもあると思います)
仕事にお金を求めたとしても、周りから認められたくて「趣味」をたくさん始めたとしても、世間の目を気にして優等生的に「責任のある正しい仕事」をしていたとしても、それらによって人間の人生が動かされては行けないと思うんです。
そういう「自分以外」の人生を送ることは必要なことだと思います。だけどそれを我慢するために自分を騙してしまうと、そのうち無理が効かなくなって、他人のロケットを破壊しようとしてしまう自分が生まれてしまうかもしれない。
私達は誰でも、お金を一銭も産まないロケットをつくって、打ち上げのために貯金を200万円はたいて、逮捕されながらも無理にロケットで宇宙人に映画を見せる夢を追いかける権利を持っていると思います。(本当はダメだと思うけど、そういう権利ではなく。)
他人のロケットを壊す人生ではなく、自分のためにロケットをつくって、そのために必要最低限の「お金のための仕事」をする人生を送りたいと思いました。
「我らコンタクティ」を読む
余談ですが、こういう漫画は連載期間が短い分、読者がつきにくいはずなんだけど、そういう漫画を取り上げてくれる「マンガ大賞」「このマンガがすごい!」などはすごくありがたいなあと思いました。
感動の分だけエモく、冗長に、叙情的に、エゴくなってしまいました。後日マイルドにしたいと思います。
以上。
出典:「我らコンタクティ 」(森田るい・アフタヌーンコミックス)

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