第1章3話|保険探偵ホームズ〜100%推理を外さない名探偵〜

小説

警察の調査開始から2時間以上が経つ。そろそろ気持ち的にも疲れてきた。荒林さん、長池室長、私はそれぞれ事情聴取を受けたが、犯行時刻の前後に3人でいたこともわかり、容疑者からは外れた。

荒林さんは最初しばらくは行政書士の試験勉強をしていたのだが、勉強に飽きたのか辺りをウロウロしたり、ほかの社員から話を聞いたりして過ごしている。

長池室長もトイレに立ったきり戻ってきたのは警察の事情聴取を受けた一度だけ。その後は姿が見えなくなっていた。

「おいアカリ!」

振り向くと自信満々の荒林さんの姿があった。

「どうしたんですか?」

「わかったんだよ」

「え?」

「だから、犯人がわかったんだよ」

「え!? 犯人が!? 誰なんですか!」

「おい声でけえよ! 静かにしろみんなこっち見てるじゃねえか。いや犯人じゃなくて、昨日のドラマの話ですよ皆さん! …これでごまかせたな。いいか、よく聞けよ。私の推理だ」

荒林さんは私が座っていた壁際のテーブルの奥側の席に座りながら、心なしか普段よりシリアスな雰囲気で話始めた。

「やっぱりあの掃除夫が犯人だ。間違い無いと思う。

さっきから情報を集めてたんだ。警察の話も聞いたよ。あいつら声がでけえな。話丸聞こえだ。

まず話を聞いたのは総務の二元くんだ。二元くんはこの会議スペースに一番近いドアのすぐ横に席があるだろ。

だから、事件が起きた時の様子をよく見てると思ったんだよ。

ただ、思ったよりも周りを気にしてないな。なんかたまに白シャツの裏にオレンジのティーシャツとか着てるような寝ぼけたやつだから。参考になる情報はほぼなかったよ」

「その情報いります?」

私のツッコミは無視して、まっすぐな目をした荒林さんは続ける。荒林さんは話を遮られるのは嫌いな人だ。

「だが、二元くんに話を聞いてる時に隣にいた平山さんがこう言うんだよ。やっぱり女の人の方がよく見てるよ」

「なにを?」

「なんで昼に掃除してたんですかねって言われたんだよ。たしかにそうだよな。普段なら、掃除は夜だろ? だいたい17-18時の定時前後に掃除するよな。

それに、会議室に人がいるときに、掃除のためとはいえ入るか? いくらなんでも非常識だろ。あの掃除夫、印象は悪くないけど、多分30中盤だろ? 花村も同じくらいの歳だし、口悪いとこあるからなんか変なこと言って怒らせちまったんじゃないかと思うんだ。それでカッとなったんじゃないかって」

「なるほど」

「警察の話でも、凶器の包丁は掃除夫の指紋しか残ってなかったって言うし、あの包丁自体は給湯室に置いてあるやつだったらしいから、掃除用具のある給湯室のことはやつらなら詳しいと思う。

事前に包丁を持ち出して、昼のこの時間、絶対にこのフロアにいる花村を狙ってグサリっていうわけだな」

「いや、荒林さんそれはちがうと思います」

「あ! 長池室長。どこ行ってたんですか」

「ほんとだ。それより違うってどういうことだよ?」

長池室長は、もう一席だけ空いた手前の席に座りながら、丁寧な口調で、淡々と話し始めた。

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